「ワイヤーハーネスの図面をどう書けばいいか迷っている」「公差をどの程度に設定すべきか分からない」——こうした悩みは、設計者・エンジニアの方から非常によく寄せられます。
公差の設定を誤ると、量産段階になって初めて「加工業者から見積もりが跳ね上がった」「不良品が多発した」といったトラブルに発展するケースも少なくありません。本コラムでは、図面作成の基本から、JIS規格に基づいた実践的な公差設定の考え方までを解説します。
ワイヤーハーネス図面は、単純な機械部品図とは異なり、「電気的なつながり(回路)」と「物理的な寸法・加工指示」の両方を1枚の図面で表現する必要があります。このどちらか一方でも欠けていたり曖昧だったりすると、加工業者側で解釈が分かれ、手戻りや誤配線の原因になります。
図面に最低限含めるべき要素は以下の通りです。
配線のつながりを示す結線表は、図面内に必ず記載します。一般的には「FROM(起点)」と「TO(終点)」に分け、以下の項目を一覧表にします。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| コネクタ番号・ピン番号 | 「CN1の1番ピン」から「CN2の3番ピン」へ |
| 線種・サイズ(AWG/SQ) | UL1007 AWG22 など |
| 電線色 | 赤、黒、青/白(ストライプ)など |
| 備考 | ツイスト指定、シールド指定、長さ個別指定など |
ポイント: 電線色は誤配線を防ぐための最重要情報です。似た色(黄と黄緑など)を並べて使う場合は、色名だけでなく「ストライプ位置」まで明記すると現場での取り違えを防げます。
ワイヤーハーネス設計において、最もトラブルになりやすいのが「寸法(全長)」と「公差」の設定です。ここを曖昧にしたまま発注すると、加工業者ごとに解釈が異なり、届いたハーネスの長さがバラバラ、というトラブルにつながります。
「全長1000mm」と指示があった場合、それがどこからどこまでの長さなのかを図面上で明確にする必要があります。同じ「1000mm」でも、基準点が違えば実際にカットする電線の長さは数mm〜数cm変わってきます。
| 測定基準 | 定義 | 主な用途 |
|---|---|---|
| コネクタ端〜コネクタ端 | ハウジング(樹脂部分)の先端から先端まで | 完成品の実装検討・見た目の寸法確認 |
| ピン〜ピン | 端子の先端から先端まで | 端子挿入後の電気的な導通経路の確認 |
| 電線長 | コネクタ内部に隠れるストリップ長を含めた、カットする電線そのものの長さ | 加工業者への発注指示(最も実務的) |
実務上のポイント: 加工現場では「電線長」基準での指示が最も誤解が少なく、自動切断機への設定もしやすいため推奨されます。図面には必ずどの基準かを注記し、可能であれば矢印付きの寸法線で視覚的にも示しましょう。
ケーブルは樹脂や銅線でできており、以下のような要因で長さに微小な変動が生じます。
このため、金属部品のような厳しい公差(±1mmなど)を出すことは物理的に困難です。公差を厳しくしすぎると、加工業者は機械での自動切断ができず、長めに切って手作業で微調整するなどの手間が発生し、歩留まりの悪化と加工コストの大幅な上昇につながります。
基本的にはJIS規格(JIS C 2811等)や業界標準に基づき、以下のようなゆとりを持った公差設定(プラス公差を大きめにとる)が推奨されます。
| 全長 | 推奨公差の例 |
|---|---|
| 〜500mm | ±10mm または +20mm/−0mm |
| 500mm〜1000mm | ±15mm または +25mm/−0mm |
| 1000mm〜 | ±20mm または +30mm/−0mm |
なぜ「プラス公差」を大きめにとるのか: ハーネスは短すぎると実装できず不良になりますが、多少長い分には配線の取り回しで吸収できるケースが大半です。そのため「マイナス側は厳しく、プラス側は緩く」という非対称な公差設定が、コストと品質のバランスとして最も合理的とされています。
Q. 公差の指定がない図面を受け取った場合、加工業者はどう判断しますか?
A. 業者ごとの社内標準(多くはJIS C 2811や類似の業界慣習)で判断されるため、業者によって仕上がりにばらつきが出ます。トラブル防止のため、必ず図面上に公差を明記することをおすすめします。
Q. コネクタ端基準と電線長基準、どちらで指図すればよいですか?
A. 量産発注であれば「電線長」基準が加工現場との齟齬が少なくおすすめです。ただし筐体への実装検証など、完成品としての外形寸法が重要な場面では「コネクタ端〜コネクタ端」を併記すると安心です。
Q. ツイストピッチを指定しない場合、どうなりますか?
A. 業者側の標準ピッチで加工されます。ノイズ対策上シビアな用途では、ピッチ(例:撚り数 10回/300mm)まで指定することをおすすめします。
図面の書き方や公差設定でお困りの際は、お気軽にご相談ください。仕様の壁打ちや試作段階からのご相談も承っております。